規制改革とは国民にノーガード戦法を強いるもの

・・・一句  改革や やったとこから 貧困に

 ノーガード戦法と言うものをご存知だろうか.ボクシングの戦法の一つ.ボクシングでは普通,両腕で自分の顔面やボディーをガッチリとガードしつつ戦うのが普通であるが,ノーガード戦法と言うものがあり,だらりと両腕を垂らし,相手に打ってくれよ,と言わんばかりの構えをするのである.漫画「あしたのジョー」で,主人公の矢吹ジョーが得意とした戦法である.相手のパンチをスウェーバックなどボディーを揺らすだけで躱し,カウンターを狙う非常に高等戦法である.

 ややもすると,ガードをしていないのでボコボコに打たれて自分がマットに沈んでしまうことになりかねないものである.

 

 さて,なぜこのようなことを述べるかと言うと,最近,「規制緩和」と言うものは,詰まる所,国民にこのノーガード戦法を強いるだけのものではないか,と思う様になったからである.

 小泉純一郎氏が首相の時に,「規制緩和」と言うことが口やかましく言われ,まずはタクシーの台数の規制が撤廃された.この時,いろいろなことが言われた.「タクシーに皆,乗りやすくなり値段も安くなり,バス並みの値段でタクシーに乗られる様になる」と言う夢の様なことも誠しやかに言われたものである.結果はどうなったか.タクシーの台数はベラボーに増えた.そして,タクシーの運転手さんの給料はベラボーに下がったのである.この「規制緩和」の前は,タクシーの運転手の年収は,400万から500万前後と聞いている.それが,このあといきなり半分になってしまった.タクシーの運転手さんの生活はカツカツか,やって行けないものと相成ってしまったのである.タクシーの運転手というのはあまり潰しの効く仕事ではない.また,どこかの会社をいろいろな事情で退職を余儀なくされ,食べて行くためにこのような仕事に就く人も多いと聞いている.故に,規制改革はこの職業の人たちに大きなダメージを与えたのである.

 言うなれば,規制緩和とか規制改革と言う波が,タクシー業界にやって来た.すると,タクシーの運転手が貧困化してしまったのである.しかし,このことで潤った業界もあるのである.その最たるところは保険会社.当時の小泉首相の肝いりで出来た直轄機関「規制改革会議」の長がオリックスの宮内社長であった.なるほど.語るに落ちたと言うところであろう.

 この政治現象を言葉を変えて言えば,結局,タクシーの運転手さんの暮らしをある程度守っていた台数規制などの規制を緩和し,ある意味,タクシーの運転手さんにノーガード戦法を強いてしまった.その結果,パンチを山ほどもらって,血みどろになりマットに沈んでしまったのである.

 さて,「規制緩和」の行く所,どんどん貧困は訪れる.

 次の例は派遣業である.そもそも労働者派遣業というものは,翻訳家とか作曲家,あるいはデザイナーや芸人など,特殊な業界にのみ認められていたものであった.それを2002年,小泉首相の時に一般の工場の労働者にも認めた.いわゆる派遣労働者の社会問題はこの時に出来た法律によって生じたものである.

 派遣労働者は派遣会社に登録して,そこから工場に派遣され給料を貰うことになる.景気の良い時ならこれも上手く機能していた.しかし,一旦景気が悪くなると,派遣労働者はすぐに解雇されることになった.馘首というか,仕事がなくなったのだから,元の派遣会社に帰ってください,というわけである.元の派遣会社に戻れと言ってもそこに仕事があるわけではない.事実上の失業である.

 本通常国会で,派遣労働者の雇用期間は3年と今は定められているが,この「3年」というのを撤廃して,無期限にしようと法改正が行われそうである.派遣労働者にとって,正職員になるのが目標と言うか,夢であるのと聞いているが,それが益々遠のくことになるであろう.

 もはや,この業界に「真面目に働けば,がんばれば,正職員になれる」と言う台詞は虚しいものではあるまいか.今や企業はどんどんグローバル化している.と言うことは,自分の所で,というか日本国内ではなんとかやっていても,たとえば,大きく円高になったとか円安になったとか言うことで,企業の収益も大きく変わるし,海外で工場が暴動で壊されたとか,戦災にあったとか言うことでも大きく企業の収益は変わる.

 企業の業績が下ブレすれば,人件費を抑えるために派遣労働者から真っ先に解雇されてしまう.企業にとって派遣労働者は業績バランスの体の良い緩衝剤になるだろう.しかし,これでは派遣労働者にとっては堪らない.まず生活が成り立たない.これではまるで,浮萍(ふへい:浮き草)ではないだろうか.

 しかし,これも新自由主義者の策動である.新自由主義を押し進めるグローバル企業を経営する者にとってはこれほど好都合なことはない.なるほど,新自由主義者の行く所,貧困が訪れることは確かなようだ.

 このことは,医療業界にも起こっている.元々は,医師,看護師などの紹介業は禁じられていた.大学の医局から関連病院への医師派遣も「医師の紹介業務ではないか」となり議論されたこともある.しかし,これも小泉時代に「規制緩和」とやらで撤廃された.

 それで医療業界に何が起こったか.

 愚生も医院を経営しているが,なかなかスタッフが集まらなくなった.これが自分の所だけかと思ったら,他の医院もそうだと言う.結局,労働者派遣会社(人材派遣会社 註)に看護師などスタッフ候補者が取られてしまい,ハローワークに応募しても集まらないのである.

註)労働者派遣会社(人材派遣会社 註):法令上は「労働者派遣」が正式の名称であるにもかかわらず、わざわざ「人材派遣」という名称を使用する業者や人がいる.労働者 = ブルーカラーのイメージを持たれることを避けるためと思われる.また,特別な「人材」を派遣するのだ,と言う意味合いを殊更強調したいのであろう.しかし,2004年の派遣労働法改正で単純労働者の派遣が可能となり,派遣労働者の数が33万人から144万人へと一気に増大した.ここでは人材派遣という言葉は使用しない.労働者派遣と言う正式名称を使うものとする.

 彼らの所から紹介してもらうと,紹介手数料として年収の1割5分から3割ほどを我々は支払わなければならないのである.年収400万円ほどの看護師を紹介してもらうと60万から120万ほど支払わなくてはならない.これは大きな出費である.更に,私が聞いた所によると労働者派遣会社(人材派遣会社)は,このようにして紹介を受けた者に対して,我々からお金を受け取る一方で,その1割から2割を「お祝い金」として渡しているようである.

 

 このような労働者派遣会社に医師を依頼すると,大変な出費になることは容易に予想出来ると思う.かつて医局から医師を派遣してもらっている病院が医局に寄付金をした,とか言って問題になったことがあったが,その額たるや労働者派遣会社に払う金額の約1/10程であった.

 私も常時2−3人の医師を派遣している某地方病院から年間30万円ほど寄付として貰っているという噂を聞いたことがあるが,今の人材派遣会社に頼めば,一人当たり400万から500万程支払わなくてはならないだろう.

 つまり,規制緩和のせいで,医療機関はこれだけの余分で莫大な出費を強いられることになったのである.

 この状況を鑑みると今後は想定年収の1割ほどをお祝い金として支給すると謳ってスタッフを求めなければならないだろう.

 さて,新自由主義的政策を強力に押し進める安倍政権のブレインは,内閣直属の規制改革開放会議,産業競争力会議などであるが,どれもこれも,新自由主義者の御用会議である.その長,というか,その組織に最も影響力のある人は,小泉時代に大蔵大臣を務めた竹中平蔵氏である.彼は昔も今もバリバリの新自由主義者.彼は同時にパソナグループという労働者派遣会社(人材派遣会社)の取締役会長をしている.なるほど,派遣労働法を改正して自分の仕事を増やしたい訳だ.また,自分で法律を作っているのだから,税金面も抜かりはないそうだ.労働者派遣会社の税法はいろいろなカラクリがあり,あまり税金を払わなくても良いようになっているそうだ.

 新自由主義者の餌食になった業界の例としては,介護業界である.介護と言うものは,どこからどう見ても医療の一分野であり,病院のように資格者が中心となって本来運営すべきものであった.

 介護保険法制定は1997年で,施行は2000年4月.この制度の隠れたポイントは医師等の資格者から切り離しだれにでもこの分野に参入できることにしたことである.これが「規制緩和」であり,効率化を最大限にもたらし良いことなのだ,と喧伝した.「医師らは経営に疎い.我々経済人,企業人がやれば,効率の良い運営ができる」と叫んでいた.恰もタクシーの規制緩和をする時に「バス並みの値段でタクシーに乗られる様になる」と宣ったように.

 今の介護がどこが効率が良いのだろうか.例えば老人ホームを見た場合,運営費として,老人1人に対して月額30万円から40万円ほどかかるようである.そのうち,本人が15万円前後ほど負担する.その他に,様態が急変したりすれば夜であれ,昼であれ救急病院に駆け込まなければならない.この様な救急病院で延命処置を施されれば,莫大な医療費がかかる.また,このような老人ホームには,モミ屋さんが出入りすることが多い.多くは国民健康保険を使って揉んでもらっているのである.

 このような老人をどのようにするのが最も効率よく療養させられるのだろうか.医療関係者ならだれでも知っているのであるが,療養型病床群である.ここに入院させるのがもっとも費用がかからないのである.1ヶ月あたりの医療費は,30万から40万.これは老人ホームと変わらない.病院あるから,医師は常駐しているし急変しても多くのものは想定内のことであり.救急病院に搬送することは殆どない.モミ屋さんが出入りすることもない.このように見ると明らかに費用は今の老人ホームよりもかからないだろう.かつ,患者本人の支払いは1割負担であるから3−4万で済む.最低年金が4万ちょっとであるから,そんな人でも療養型に入院すれば家族に負担を強いることも無く療養が出来たのである.これは何も極端なケースではなかった.介護保険が始まる前の療養型病院では当たり前であった.介護保険がスタートすると同時に政府は療養型病床を無くする,と宣言しかなり減らした.減らしはしたものの,効率の良いシステムであるので,社会的ニーズも政府は無視出来ず全廃はできなかったが,数はかなり減ってしまった.

 結局は,この介護保険制度度言うものも新自由主義者たちの産み出したものであり,碌な物ではなかったという訳だ.

 また,介護施設の労働はきつく給与も安いので,慢性的な人手不足に陥っている.「効率の良い」という謳い文句はどうなったのであろうか.

 このように考えると,新自由主義者はまるで疫病神である.どこまで我々に祟るのか,言う事である.

 新自由主義者の徘徊は留まる所を知らない.彼らが福島原発の事故に乗じて電力の自由化を殊更大きな声で叫んだ(我が国では1995年に電力の自由化はなされているが,原発事故を契機にかなり進めた).するとどうなったか.電気代がどんどんと上がり始めた.これは原発が停まってしまったこともあるのだが,発送電分離だとか宣って電力の買い取り制度等を作って電力会社に高い料金で電力を買ってもらっているのも電気代が上がっている原因だと私は思っている.

 根拠が薄弱だろうと思う.しかし,これだけは言える.電力の自由化は先進国では日本に先んじてかなり行われている.行われた後,どこでも電気料金がどんどん上がっているのは共通している(表).

 この記事を書いている最中,2020年に電力の発送電分離を閣議決定したとのニュースが入った.安倍内閣はつくづく新自由主義推進内閣なのだなあ,と実感した.

 今度は,ガスや水道等も自由化すると言っている.きっと,値上がりの嵐になるだろう.新自由主義者の行く所,本当に碌なことはない.こうなるともうこの国に巣食う疫病神ではないか.

 情報ソース:経済産業省

 さて,このように日本を彷徨い歩く新自由主義者の次の標的はどこであろうか.どうも,農業と医療のようだ.なぜならば,安倍首相はことあるごとに,農業と医療は打ち壊すべき日本の岩盤だ,と力説している.

 農業は農協潰しを農協改革と呼んでいる.私は農業分野に関しては詳しくないのでここでは述べない.農協が悪者に成っている様だが,疫病神と化した新自由主義者共の方が余程タチが悪いものであろうと確信している.

 医療に関しても疫病神と化した新自由主義者がやって来て,いろいろなことをほざいている.一つは医療法人の理事長案件だ.今までは医療法人の理事長には,医師かないしはその家族しか成ることは出来ないと言う規定がある.これを変更してだれでも成ることの出来る様にしようと言うものである.言うまでもなく,新自由主義者が病院事業に参画してお金を儲けるのが狙いである.しかし,病院事業でお金を儲けるのは難しいように思う.そこで彼らは「混合診療解禁」を提案したりする.混合診療によって,今の国民健康保険制度が形骸化し,国民の医療費負担が増大することなどお構いなしである.自分らが儲かれば良いとなりふり構わずである.

 あと病院の医師の確保が難しい.それが難しければ,外国人医師を呼べば良かろう,と言うのが彼らの言い分の様だ.外国人医師に日本の国家試験,研修医制度を踏ませて医師の資格を認めるというステップをなしにして,いきなり与えてしまおう,とも言っている.こんなことをしてしまったら医師の質,医療の質が担保出来なくなるだろう.医療の安心が崩れてしまう.このようなことを本気で考えているようだから驚きだ.日本人の安全保障にも関わることではないだろうか.

 彼らの思考が見えるではないか.とにかく自分らが儲かりさえすれば良い.そのためには,「規制改革」を叫び,ルールの変更を図る.このような規制は,社会的弱者を守ったり,仕事の質を担保したり,国土,国家を守るものまで色々ある.これを規制改革の名の下に撤廃せよと言う訳だ.言うなれば,その分野で働いている人を守っているものを撤廃する.つまりノーガードになるわけだ.他人にノーガード戦法を強いておいて,自分らは思い切りパンチを浴びせダウンさせてしまう.そして,一人勝ちを狙う.つまり自分たちの利益のためならお構いなしだ.

 こうなると,自分たちの利益だけのために国民を貧困にする政策を次から次へと政府に打ち出させる新自由主義者とは一体何なのだ,と思う.安倍首相の言葉をそっくりと借りると,新自由主義者こそが日本に巣食う魔蟲であり,我々が全力で打ち壊さなくてはならない岩盤であると思うのだが,いかがであろうか.

 労働者が足りないのなら外人を入れろ,労働者をいつでも馘首できるように,皆,派遣労働者にしてしまえ,残業代も払わなくて良いようにしよう,介護も医療も農業も電力も水道も自分らにやらせろ,という感じである.儲かる所は骨までしゃぶり,やってみて儲からなかったら,さっと引いてしまう.介護ではさすがに儲からず撤退しつつある.後には惨憺たる労働環境と使い勝手と効率の悪い制度が残るのみである.

 今,政府の唱える,いや,新自由主義者たちに唱えさせられている「規制緩和」なるものは則ちこのような考えに基づいているのである.

 従って,規制緩和が実施される所には常に貧困が蔓延るのである.

 一句できた. 改革や やったとこから 貧困に 

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この漫画を描くのに、悠に4時間くらいはかかっているのかなあ。けっこう時間がかかるものだ。

でも、皆様に喜んで頂けたら、私としては何も言う事はありません。

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