安倍政権は医療に対して重い腰を上げたが・・・

 政府は医師派遣業者を喜ばせただけだったのか

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国主導で医師を緊急派遣  女医の復職を支援

2007年05月29日 19:16 【共同通信】


 地方を中心とした医師不足を解消するため政府、与党が検討している医師確保対策の最終案が29日、ほぼまとまった。医師不足地域に対し国が主導して緊急的に医師を派遣したり、出産、育児などで離職した女性医師の復職を支援、勤務医の過重労働を解消することなどを盛り込んだ。

 政府与党は31日に協議会を開き、安倍晋三首相が出席して最終案を決める方針で、6月に政府の「骨太の方針」や、参院選の公約にも反映させる。

 緊急医師派遣は短期に効果が上がる対策として整備。国立病院や規模の大きな民間病院などに派遣機能を担わせ、国が都道府県からの求めに応じて各地の自治体病院などに派遣する。へき地など一部に限定している医療従事者の人材派遣について労働者派遣法を一部緩和して派遣しやすい環境を整える。早ければ6月にも始まる見通しだ。

 中期的な対策では、医師国家試験の合格者が3割を占める女性医師の活用を促す。特に出産や育児で離職する状況を減らすため、院内保育所の整備や、復職のための研修を実施する病院を支援する。

【コメント】憲法改正を唱えるだけで,医療にまるで関心のなかった安倍内閣もここにいたって重い腰をちょっとだけ上げたようだ.

 それにしても,陳腐.このようなことは今まで地方自治体レベルで散々やっている.ほとんど効果がない.そのようなものを利用する医師がひとり出たと,この前,北海道新聞に載っていたな.

 これが,医局主導でやっていた頃には,女性の活用なんて政府に言われるまでもなくキチンとやっていた.30-100人の医師の集まりである医局単位で医局長が,そのリタイア中の女医さんのキャリアや性格,また,受け入れ先の要求度,そこにいる常勤医とその女医さんの相性などを勘案して派遣していた.また,そのレベルでないとこのようなことはできない.

 国レベル,都道府県レベルでノウハウのない役人がやろうと思っても出来ることではない.また,医師派遣業者が詐欺まがいの事件が起こり,病院側が大損するだけだ(下の記事).

待望の医師、市「焦り調べず」 防衛省医官の兼業発覚

2007年05月22日18時27分

 秋田県男鹿市立の「男鹿みなと市民病院」が非常勤の内科医として採用した女性医師(30)が、兼職が禁止されている国家公務員の防衛省医官だったことがわかり、計4日間診療しただけで市はこの医師をやめさせた。病院は医師を紹介してもらった仲介者に693万円を支払っていた。市側は「詳しく調べず、公務員とは気づかなかった」と話しており、医師不足に悩む地方自治体の焦りが背景にありそうだ。

 市によると、雇用契約を結んだのは今年3月28日。契約期間は1年間で、月曜日朝から水曜日夕方にかけて通算50時間の診療を月に2回行い、月ごとの報酬は100万円という内容。この契約に基づき、医師は4月23〜25日と5月1日の4日間、内科医として診療にあたった。

 しかし、市議から詳しい事情を尋ねられた市が、5月1日に医師本人から聞き取り調査をした結果、陸上自衛隊に籍を置く医官とわかった。市は2日以降の診療をやめさせ、契約を解除した。

 市などによると、同院は昨年4月以降、もともと10人いた常勤医が半減した。市幹部らはここ2年間、知人を頼るなど様々な方法で医師を探してきたが、見つからないままだった。今回の医師は市幹部の知人のつてで、「医療コンサルタント」を名乗る男性から3月27日に紹介され、翌日に契約。病院の事業会計からコンサルタント料63万円と成功報酬630万円を支払った。医師が辞めることになり、成功報酬の返還を求めたが、コンサルタント側は「契約は成立した」として拒否しているという。

 市は当初、提出された履歴書などから「東大付属病院で研修中」と認識していたという。佐藤一誠市長は「市民に喜んでもらえると焦ったばかりに異常な契約を結んでしまった。医師不足は変わらないので、今後は適切な契約を結び、医師確保に努めたい」と話している。

 陸上自衛隊は「事実関係を確認中」としている。

 「月曜日朝から水曜日夕方にかけて通算50時間の診療を月に2回行い,月給100万」 100万という月給の高い安いを論じても,条件等もあるし,これは人様の給料の多寡を論じてもしょうがないと思うのここでは論じない.

 私が注目するのは,この話をまとめたコンサルタントに630万円を市は支払ったと言うこと.結局,この医師は勤めないのであるが,このコンサルタント料の630万は返還されるかどうか分からない.難しいんじゃないかと思う.というのは,コンサルタントもキチンとした人もいれば,そうでない人も大勢いるというのが現実だからだ.

 それにしても,常勤でもない医師をこのような条件で勤務してもらうのに,コンサルトに頼んでバタバタしなくてはいけない,なんて本当にナンセンス.哀しい.

 医局がキチンと稼働していれば,このくらい働く医師を獲得するのは,市立病院クラスなら容易であった.しかも,医局に対してこのような不明なコンサルタント料など支払う必要がなかった.

 一昔前に,コンサルタント料ならぬ,「医局への上納金」などがあったが,そんなものは大体年間30万から50万.しかも,医師過剰時代の流れを受けてだんだん少なくなってきていた.しかし,当時のマスコミはそれが痛く気にくわなかったらしく大々的に報道して潰してしまった.そして,結局,このくらいの非常勤医を見つけるのにも600万という膨大な手数料を支払わなくてはならなくなった.

 まったく,バカバカしい限りだ.

 平成16年,政府は鳴り物入りで医療関係者の反対意見に耳を貸さず,研修医制度を実施した.そのせいで,地域医療どころか,東京や大阪などの大都市の医療までもがおかしくなった.研修医制度で結局潤ったのは,医師派遣業者位で,もっとも大損をしたのは,国民であったことが明らかになってきた.

 もはや,研修医制度を続けることに何ら意義を見いだせないが.研修医制度を導入した厚生官僚のプライドを維持するためだけに,この先も行われ続けるのだろうか.

掲示板より
スタッフが増えると仕事が増える... 投稿者:暇人28号 投稿日:2007/06/05(Tue)  

 先日の私のコメントで、「こんな人を余剰に囲っていられる病院などありはしない。」としましたが、それに対しての補足をします。(特に非医療者向け)。

 医師の仕事って特殊な面があります。それは、「人が増えれば増えるほど仕事量が増える」ということ。

 医師一人ならば外来診療をこなす程度しかできないけれど、それが2人になれば簡単な手術が出来るようになる。手術が出来れば外来患者も集まる。5人になれば大きな手術が出来る。10人になれば先端的な手術が出来てさらに外来患者さんも増える...... とまあ、医師を集めれば集めるほど出来る仕事の量・質とも指数関数的に向上します。

 特に、このことを実感できるのが「夏季休暇期間」です。夏季休暇で医師が休むと、その期間は手術がストップします。(少なくとも大きな待機的手術を予定することはない。緊急手術に関しては出来るものはするけど、出来ないものは大きな病院に送ることになる。)

 ということで、「やぶ」で病院内で干されている状態の医師以外、その医師が一人居なくなるだけで診療科の診療能力が落ちるのです。特に、多くの病院では一つの診療科に医師は2−3人ですから一人欠けるだけで影響は非常に大きいです。当然売り上げにも影響します。緊急対応にも支障が出ます(入院患者さんの急変時の対応が出来なくなる可能性もある)。

 ひとつの診療科で何十人も雇える病院は限られますし、そんなところでもその何十人は過酷な診療を強いられています(記憶に新しいのが国立循環器病センター。あそこの研修は過酷で過労死という話も良く出てきますし、先日ICUの医師が集団退職しました。)。

 こんな状態ですので日本で医師が余っている病院と言うのは存在しない、と考えたほうがいいです。強いて言えば大学病院がそういう病院といえますが、あそこは臨床を離れて研究をしている医師を週2−3日アルバイトで市中の病院に向かわせているだけです。しかも、研究に没頭できるかというとそうでもなく、大学病院の患者さんの診療にも当たらないといけない。研修医の指導もしなくてはならない。しかも、薄給(下手したら「大学院生」という身分にさせられて授業料を払わないといけない)。

 そして、その唯一医師が余っていた大学病院の医局は弱体化した。

 つまり,日本に医師の余っている病院は現状ではほとんどない、ということです。

Re: スタッフが増えると仕事が増える... A企画 - 2007/06/06(Wed)
  
 おはようございます.暇人28号さん.

 先生の意見,卓見だと思います.言われてなるほどと思いました.
 ワンポイントでいいからちょっと来て欲しい,ちょっと来てくれるというドクターが居なくなりましたね.
 そして,このようなワンポイントでも人材派遣業者に頼むとものすごいお金がかかり,また,詐欺まがいなものも多く出てきます(先の記事のように).

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医師は職人 論・・・なぜ,政府,自治体の行う医師確保策は次から次へと見事なまでに失敗を続けるのか?

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