政府,厚生労働省の「研修医、拠点病院に集約・・・制度」は,まるでパロディーである.
研修医、拠点病院に集約 修了後へき地に 政府与党検討
                      朝日新聞 平成19年5月19日

 政府・与党は18日、医師の不足や地域間の偏在を解消するため、大学卒業後の研修医の受け入れ先を地域の拠点病院に限定し、拠点病院にへき地への若手医師派遣を義務づける方向で検討に入った。従来、医師を割り振る役割を担ってきた大学医学部が、04年度の新しい臨床研修制度の導入をきっかけに機能しなくなってきたため、地域医療の中心になる拠点病院に代替させる狙いだ。

 政府・与党は同日、医師不足対策のための協議会を発足。100人程度の医師を国立病院機構などにプールし不足地域に緊急派遣する対策とともに、拠点病院からの派遣策について具体的な検討を進め、6月の骨太方針に盛り込む方針だ。

 これまで新卒医師の7割以上は大学医学部の医局に在籍して研修を受け、強い人事権を持つ教授と地元病院などとの話し合いで決められた医療機関に派遣されることが多かった。

 だが、新臨床研修制度の導入で原則として医師が自分で研修先を決められるようになり、実践的な技術を学べる一般病院を選ぶ医師が急増。都市部の病院に研修医が集中する一方、地方では定員割れの病院が続出し、へき地に医師を派遣するゆとりがなくなった。

 政府・与党は、現在年1万1300人分ある研修医の定員総枠を、研修医の総数8600人程度に削減することを検討。都市部を中心に定員枠を大幅に削減することで、地方への研修医の流入を促進するとともに、受け入れ先を地域の拠点病院に限定する。

 そのうえで、拠点病院に対して、研修の終わった若手医師を医師不足が深刻な地域に派遣することを義務づける。勤務を終えた医師には拠点病院でのポストを約束することで、若手医師の理解を得たい考えだ。都道府県が条例などで拠点病院に医師派遣を義務づけられるようにし、医師の供給を確実にすることを目指す。

 このほか、長期的な対策として、一定規模以上の医療機関の院長(管理者)になる条件にへき地勤務の経験を盛り込むことや、都道府県が地元出身の医学部生に出す奨学金に国が財政支援する案も浮上。卒業後、地域医療に10年程度携われば、奨学金の返済を免除することなども検討する。

この記事はパロディーである.どうかお気楽にお読み頂きたい. 

 さてさて・・・またまた,厚生労働省から面白い提言がなされた.この提言を分析してみよう.

 まず,重要なのはこの提言の中でさりげなく厚生労働省は医師の都会への偏在を認めたわけだ.都市部,特に,東京,大阪などの大都市圏への医師の偏在が言われてきたが,これまで厚生労働省はそれを認めてこなかった.曰く「○研修医が忙しい科とか,訴訟の多い科を敬遠する傾向があると言われていたが,決してそうではなく,研修医は,興味に従って専攻科を選んでいる.小児科,産婦人科などいわゆるキツイと言われている科にも多く進んでいる. 

 ○それまで大学に集中していた若い医師が,進んで地方に行くようになった」(厚生労働省の見解 2006

 今回ので,医師の都市部への偏在を認めたのは大きな躍進だ.というか,気づくのが遅すぎる.

 問題はこの提言をどう実行するかだ.現在の11300の研修医の枠を卒業生の実数の8600までどう削るのか.どこでも研修医獲得は至上命令であったし,厚生労働省自体が「魅力のある病院を作り,研修医に選んでもらえるように」と他人事のようにであるが,病院に対してお薦めしていたのに,その方針を転換して,研修病院自体を減らしてしまうわけだ.

 どこの病院でも死活問題だけにかなりのゴタゴタが予想される.どの病院も青筋を立てて必死でやるわけだ.今度の研修医枠は,今までの2年間でなくなってしまう泡のようなポストではない.そのあとも,その地方の僻地に研修医が行ってくれ,また,数年経つと帰ってきてもらえるのだ.「ポストを用意する? そんなことおやすいご用さ」という,病院関係者の声が聞こえてきそうだ.だから,この研修医枠は厚生省の役人にいくら酒を飲ませても,いくら女を抱かせても絶対取らなければならない史上最大の作戦となる.例え,役人と刺し違えてでも取らなくてはならない.

 北海道では,根室市立病院なんかは真っ先に選ばれそうだ.そうなると毎年数人の若者が根室市立病院に入り,2年間の初期研修終了後に根室管内のあちこちの病院へ派遣されることになる.そして,3-4年回って,また,根室市立病院に戻ってきてくれるわけだ.なるほど,万々歳だ.

 いや,閑話休題.日本全国でどのように割り振るかがまず問題となる.ここでは仮に医学部のある都道府県の卒業生の数だけ,その都道府県に割り振るとしよう(これだって,かなりゴタゴタしそうだ).

 すると,北海道は300の枠をもらうことになる.拠点病院と言うからには,大学病院も含まれるだろう.例えば,大学病院は各々が50の枠をもらうこととしよう.

 次に北海道には14の支庁がある.石狩,上川は大学病院に研修医の枠を与えた.石狩管内は人口も多いし,研修医獲得でがんばっている病院もおおいので,30の枠を与え,これを,石狩管内の病院に割り振りすることにする.そして残り120の枠を石狩,上川支庁を除く12の支庁で分けることになる.一つの支庁に10人の研修医が行くことになろう.先の根室市立病院は根室管内の拠点病院となるだろうから,ここに10人近くの研修医が配属されることになる.別海町立や中標津と分けるのかも知れない.

 檜山支庁なんかも,すごいのではないか.道立江差病院に10人の研修医が行くことになる.北海道は道立江差病院の民営化をきっと躊躇するだろう.そうだ! 勝手に分図地図を作ってみよう.

各地に上がる喜びの声:

 旭川医大学長:いやいや.一息も二息もつきました.一時はうちの大学の医局に全部で11人しか入局者がいなくて,しかもそのうち,半分位が眼科だという,壊滅的な時代もありましたが,50人も新人が入ってくれたら,ハッキリ言って万々歳.これから私も枕を高くして眠れますワイ.いや,今の失言.なしね.今後も,道民の皆様の期待に応えさせて頂くよう,全学を上げてしっかりと新人医師を教育し,地域医療に貢献したいです.

 根室市立病院:根室管内も救われました.この地域に毎年10人の新人医師が来てくれるなんて夢のようです.うちと,別海町あたりで7人,3人の新人を採りますかね.あとは,新人医師の専門をどうするかですが,こちらに人事権があるのだから,何とでもなるね.脅かしたり,褒めたりして,今,人気のない,産婦人科や小児科を勉強してもらうよ.だけど,うちの地域で産婦人科なんて勉強できないな.どうしよう? 大学で2-3年やってもらうかな.

・・・・・・

 まあ,こんな感じになり,けっこう良いのかな.(まあ,良い話ばかりではないだろうがな.進路によって医師の質が違いすぎる.つまり,医師の質を担保できなくなるだろう.また,全くやる気のなくなる若い医師も続出するだろう)

 他の都府県も北海道と似たり寄ったりだろう.

 とにかく,言えることは,ひとたび拠点病院となれば,実質上,その地域の医師の人事権を握ることになるので,その拠点病院の院長は,一昔前の教授のような権勢を誇れるかも知れない.

 「うちに人を出してくれ」と近隣の病院からその拠点病院の院長の下に直参する人が夜も昼も絶えないだろう.

 この制度が実施されると決まったその日から,今まで,僻地で人がいなくてピーピー言っていた病院の院長が財前教授のように威張れるわけだ.


次にどのように卒業生を振り分けるか,であるが,基本的にはマッチングがよいだろう.ただ,誰でも分かるように,やっぱり東京のブランド病院や東大や慶応などの勝ち組大学病院はそれこそ空前の倍率となろう.それに対して,北海道の道東地区,道北地区の市中病院のような拠点病院などは,あまり希望者がいないかもしれない.

 しかし,この制度の良いところはその様なところでも強制的に人がもらえるという点である.だから一度,拠点病院として認められたら,まったく自助努力をしなくなる所も出てくるだろう.悲惨な職場になりそうだ.

 それではどのように選抜するか.今,5年目から臨床実習をやっているようだが,これに入る資格試験というのがあるそうだ.これは全国一律でやっている.このような全国一律のテストと大学での学業成績をプラスして,卒業生の点数を出し,良い順に割り振っていくのも良い.あと,医師国家試験の成績順に振り分けても良いではないか.試験というのは単純であればあるほど公平性が出て良い.国家試験の成績順に振り分けるというのは我ながら良いアイデアだ.

 とにかく,この制度では一度ある拠点病院に行ったら,5年から10年位びっしりとその地域に居なければならないようだ.これは大変なことである.マッチングが将来を賭けた大変なくじ引きとなる.

 たとえば,東大の医局にでも入れば,大変な僥倖である.2年研修し,あくまでも東京地域で研修することになろう.三宅島辺りに行くこともあろうが,都内のブランド病院でも研修できそうだ.非常に恵まれている.そして,そのあとは,東大に助手(助教)のポストが用意されているなんて考えただけでも素敵だ.豊富な予算を使って,力一杯研究が出来て,将来はその様な分野で日本や世界をリードするようなドクターになることが出来るかも知れないではないか.

 何だかんだと言っても医者は職人だ.職人は技術にのみ頭を下げるものである.自分の臨床の得意分野と,自分の行っている研究分野がしっかりとかみ合って,研鑽をしている人というのは本当に素晴らしいと思うし,本当に尊敬できる.実は先日,自分の専門分野の講演会があり,その講師の先生が大変素晴らしい講演をされた.自分の臨床と研究がきれいにマッチしており,しかも,その方向性が素晴らしかった.その様な講演を聴く機会があったが,私は心底感服した.

 同じ医師として生きるのであれば,その様な仕事をしてみたいものだといつも思っている.

 ドクター孤島のようになりたい,とまじめに考えいる人も在学中の学生の中にはいるようだ.大丈夫だ.この制度はそのような道を歩みたい人であれば,その様な病院とたいした競争もなくマッチできるであろう.だけど,勘違いをしないで欲しい.あのマンガのドクター孤島も大学や東京の一線病院で揉まれてあそこまでの技術を身につけたのである.だから,揺れる船の上で盲腸の手術をしたり,田舎の病院で経験のない若い看護婦を前立ちにして,大動脈瘤の手術を成功させられたのである.ポッといきなり症例も指導教官もいない田舎の病院に行き,何年やろうが技術などは身に付かない.

 何度も言うようだが,医師は職人.職人が尊敬するのは自分に出来ないことをやることの出来る人.その様な職人に対しては需要も集まるものだ.そのためには,最初はやはり指導教官も沢山いる大きな病院でとにかくいろいろな症例に立ち会うべきである.

現在,大学での研修は人気がないようだが,がらりと変わるかも知れない.いつの時代でも,人の価値観なんて,このようなものではないのだろうか.

 とにかくである.この制度が本当に実施されれば,卒業時の振り分けが大変なものとなる.望まない地域に試験でうまくいかなくて回されることになったら本当に悲劇である.とりわけ,北海道の気候は厳しい.1年の半分が冬で,夏でもストーブを焚かなければならないような地域で,研修,その後,数年,その地域の近隣の僻地と言われるところ(その拠点病院自体が「僻地」と言われるところにある場合があるが)に行くとなると,人生に絶望しそうだ. そのあとで,その拠点病院にポストを用意する,と言われても,何とお答えして良いのやら...

まとめ

○厚生労働省のこの試案はまるでパロディーである.

○どこが拠点病院になるのか.それを巡って,激烈な争いが展開される.金,オンナはもとより,流血騒ぎすら起きそうだ.

○ひとたび,拠点病院になれば,これは圧倒的においしい.

○卒業生も大変.どこの研修医病院に行くかで人生の大部分が決まってしまう.

○基礎医学をやりたい,と言う人はどうするのだろう.あと.,厚生官僚になりたいと言う人もいよう.その様な人の進路は? 全員,遮二無二,7年位拠点病院を中心に勤務するのか?

○北海道の地図に拠点病院を勝手に配置してみたが,若手医師300人が北海道に勤務してくれれば,ずいぶんと北海道の医療情勢も潤沢になるものだなあ,とつくづく思った.

 思えば,研修医制度が始まる前は,北海道の3大学を合わせると300人近い医師が大学で研修をしたのである.そしてあちこちに出張,勤務をしたのである.医師不足などは微塵もなかった.

 つくづく,臨床研修医制度を辞めるのが,最大の対策であると実感した.くだらない拠点病院を作るなどと他愛もない妄想のような政策を思いつくよりは..だ.

国主導で医師を緊急派遣  女医の復職を支援

2007年05月29日 19:16 【共同通信】


 地方を中心とした医師不足を解消するため政府、与党が検討している医師確保対策の最終案が29日、ほぼまとまった。医師不足地域に対し国が主導して緊急的に医師を派遣したり、出産、育児などで離職した女性医師の復職を支援、勤務医の過重労働を解消することなどを盛り込んだ。

 政府与党は31日に協議会を開き、安倍晋三首相が出席して最終案を決める方針で、6月に政府の「骨太の方針」や、参院選の公約にも反映させる。

 緊急医師派遣は短期に効果が上がる対策として整備。国立病院や規模の大きな民間病院などに派遣機能を担わせ、国が都道府県からの求めに応じて各地の自治体病院などに派遣する。へき地など一部に限定している医療従事者の人材派遣について労働者派遣法を一部緩和して派遣しやすい環境を整える。早ければ6月にも始まる見通しだ。

 中期的な対策では、医師国家試験の合格者が3割を占める女性医師の活用を促す。特に出産や育児で離職する状況を減らすため、院内保育所の整備や、復職のための研修を実施する病院を支援する。

【コメント】憲法改正を唱えるだけで,医療にまるで関心のなかった安倍内閣もここにいたって重い腰をちょっとだけ上げたようだ.

 それにしても,陳腐.このようなことは今まで地方自治体レベルで散々やっている.ほとんど効果がない.そのようなものを利用する医師がひとり出たと,この前,北海道新聞に載っていたな.

 これが,医局主導でやっていた頃には,女性の活用なんて政府に言われるまでもなくキチンとやっていた.30-100人の医師の集まりである医局単位で医局長が,そのリタイア中の女医さんのキャリアや性格,また,受け入れ先の要求度,そこにいる常勤医とその女医さんの相性などを勘案して派遣していた.また,そのレベルでないとこのようなことはできない.国レベル,都道府県レベルでノウハウのない役人がやろうと思っても出来ることではない.また,医師派遣業者が詐欺まがいの事件が起こり,病院側が大損するだけだ.

 もちろん,その様な医師を派遣してもらっても,派遣先の病院の手数料などは無料だ.

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記事:政府は医師派遣業者を喜ばせただけだったのか

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