医事評論家・水野肇 医療の中核は家庭医が担う を笑う理由
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【正論】医事評論家・水野肇 医療の中核は家庭医が担う



医事評論家・水野肇氏(撮影・古厩正樹) 産経新聞

 ■開業医への補充教育など態勢整備も
 ≪ドクター・ショッピング≫
 心臓外科の父といわれて多くの弟子たちに慕われていた榊原仟(しげる)博士が、なくなる直前、私に3度もいわれた言葉が近ごろ非常に思い出される。
 「私が非常に心配していることは、専門医がもてはやされて、医師の中でも専門医のほうが家庭医(G・P=ジェネラル・プラクティショナー)より優れたものだという風潮が強まっていることです。専門医というのは碁盤の目の1つをやっているにすぎない。ほんとうの医師というのは、いわゆる総合診断医、つまり開業医ですよ。ここをとりちがえている人が患者にも医師にもふえているのは憂慮すべきことです。この点をあなたは何回も医療界と一般の人の両方に主張してもらいたい」
 このような趣旨だったが、私は何か先生の遺言のような気がした。


 この榊原先生の心配はまさに的中している。例えば、慶応大学付属病院の1日の外来患者は現在5500人もいるといわれている。高度医療を行う慶応病院の外来でないと診療することのできない患者が1日に5500人もいるとは思えない。大した病気でなくても慶応病院で診てもらおうという患者が多いわけである。


 本来の医師のかかり方というのは、まず家庭医(開業医)のところに行って診てもらう。ヨーロッパの場合、家庭医のところに来た患者の9割はそこで治療ができる。医療機器や技術がなくて大病院や大学病院に紹介する患者は1割ぐらいしかいない。それだけの実力を家庭医は持っているのである。
 医師にかかるのは世界的にみて、先進国ではこのように行われている。日本のようにカゼひき、腹痛、二日酔い、切り傷のような軽医療の患者が大学病院にわんさと行くような国はまずない。


 日本では、保険証1枚で、大学病院でも開業医でもどこにでも行くことができる。これを「アクセスがいい」といって高く評価する向きもあるが、これは医療費の無駄にもつながるものであるし、何も医学の知識のない患者が自分で勝手に病状を判断し、それで大学病院に行っても何科にかかっていいかもわからない。たとえ大学病院のガイド(案内係)に聞いてみても、正しい判断であることのほうが少ないだろう。


 ≪家庭医を信用できない?≫
 まず、家庭医に診てもらって、そこで診療できればそれでいいし、大病院や大学病院に紹介される場合も、家庭医が一応の診断を付けて紹介するわけだが、科の選択も的確であるはずである。
 日本では、何か品物を買うときに百貨店に行けば何でもある。これが欧米では一流品は専門店にしかない。日本に乱れた診療の形が出たことは、こういった文化の違いもあるのかもしれない。


 非常に厄介な問題もある。日本の国民の中には、いわゆるかかりつけ医と呼ばれている医師を信用せず、大病院の〇〇先生やマスコミで名の売れたドクターを名医と信じている人がいる。これは認識不足である。多くの日本の開業医(約七万数千人)はそれなりの能力を持っている人が多い。ただその中の一部ではあるが、G・Pとして必ずしも十分な条件を備えていない医師もいる。


 ≪幅広い経験を積んで開業≫
 これは、これまでの日本の医師づくりの制度にも問題があった。かつては、医学部を卒業すると直ちに大学病院の医局に入局するのが普通だった。医局は原則として教授が専門にしている病気にしか興味を持たないし、患者もそういった人が多い。それで一人前の専門医になればいいが、こと志とちがって、開業することもある。この場合、開業医としての一応の知識と経験を持っていないことがあって、それが問題になる。


 これを防ぐため、今世紀に入ってからは、医学部を卒業して国家試験に合格しても、すぐに医局に入局できなくなり、卒業後2年間は内科、外科、産科、小児科、救急、公衆衛生などの分野の勉強をしないと、医局に入局できないし、開業もできないように改められた。したがって最近は、十分な学力と経験を持った医師が誕生しているが、それ以前の開業医の一部にG・Pとして十分でない医師がいることは事実である。これは日本医師会が補充教育をする必要があり、すでにその態勢が組まれている。
 そのほか、これから激増する75歳以上の後期高齢者の健康をG・Pに見守ってもらわねばならないなど、G・P問題は山積しているが、あくまでも家庭医が原則なのである。(みずの はじめ)
(2007/06/12 05:09)

ああ,まだこんな馬鹿なことを言っている人がいるのか,と嘆息した.まるで現実を見ていない.

1)家庭医が最初に診る制度が本当に良いのか?

  家庭医を水野氏はもてはやしているが,この制度が本当に良いのか.今の状況で,主要先進国ではアメリカ,イギリスを始め,この制度を採っているところが多いことは確かだが,残念ながら,医療費はこれらの国の方が日本よりもずっとかかっている.なにしろ日本の医療費はG7の中で最低である.

 ということは,家庭制度が医療費の節約に役立っているということは決してないと言う証左である.むしろ逆である.このような現実を見て,ものを言わなくてはいけない.

 参照 日本の医療の実情 日医総研 研究部長 石原 謙 クリック 諸外国,特にアメリカ・イギリスの医療情勢がよく分かります.また,それらと比較することにより,日本の医療の良さを再認識できます.

2)臨床研修医制度で「家庭医」として十分な学力と経験を持った医師が誕生している?

  これも笑える.臨床研修医制度の問題点については当ホームページで沢山述べてきた.この制度をここまで褒める人は,2年前には政府・厚生省の関係者とその御用学者によく見られたが,医療崩壊が生々しい現実となった今,ここまで褒める人も珍しい.

 臨床研修医制度・・・例えるならば理系学生にとっての大学の教養課程の社会学,社会思想史,日本文学などの人文科学系,文化系の講義とでも言うべきだろうか.このような講義だってきちんと聴いていたらそれなりに面白いものでためになるものかも知れない.ただ,私も含めてさぼっている人も多かった.

 ただ,教官と学生の間に暗黙の最低限の礼儀というかそのようなものはある.出席日数を規定分満たし,かつ,試験を受け,レポートを提出し,それで単位を認定されなければならない.最低それだけはやらなければならない.出席もしない,試験も受けない,あるいは,何も対策なしで受けて滅茶苦茶な答案を書いたり,レポートを出さなかったりしているともちろん単位はもらえない.それにより進級が出来なくなるかも知れない.

 今の臨床研修医制度もこれに本当に考え方がよく似ている.まじめにすること,それは良いことだ.しかし,手を抜こうと思ったらいくらでも抜ける.ただ,そこに指導医と研修医の間の暗黙の了解というものは存在している.5時になったらすーーっと居なくなっても文句を言われることもない.仮に文句を言われたってどうせ一時的なものである.数日間の旅行を楽しんだって良い.ただ,「旅行に行きます」とか「指導医のお前さんの指導など受ける位なら5時に帰った方が良いよ!」などとおおっぴらに言うのはダメだ.「風邪を引いた」とか「故郷から両親が来た」など上手に言えばだれも咎めることはない.

 まじめにやった人,手を抜いてやった人,いろいろな2年間があろう.どちらにせよ,勝負は初期研修終了後の3年目からである.3年目以降に指導医に恵まれなかったり,症例のない病院に行ったりすると,2-3年位の間に一生かかっても埋められない位の大きく差がついてしまう.

 臨床研修医制度前は,直接医局に入局し,そこで厳しくしごかれた.全身全霊をかけて仕事に打ち込むことを要求された.5時に帰ったり,嘘をついて休んだりしたら,きびしく罰せられるのは言うまでもない.どこの職場でもそうであるが,それがいわゆるこの世の中での「本当の職場」なのである.その中で医療技術を覚えていったし,そのくらいやらないと医療技術というものは身につけられるものではない.

 臨床研修医制度・・・その様な意味から言うと,これは本来の「本当の職場」ではないのではなかろうか.半分学生,半分社会人という何とも優雅な立場なのである.医師不足で病院を上げてちやほやするのだからなおさらだ.だけど,このような環境では医療技術などマスターはできまい.

 少なくても,「臨床研修医制度で家庭医として十分な学力と経験を持った医師が誕生している」というのは笑い話でしかない.

3)激増する75歳以上の後期高齢者の健康をG・Pに見守ってもらわねばならない・・・所詮,水野氏も御用学者としてこの記事を投稿したのか.分かりました.

 今,政府・厚生労働省が進めている後期高齢者保健医療制度というもの.これは,まず,総合診療医というものを政府が認定し,75歳以上の後期高齢者が病気になった場合は,まず,指定された,総合診療医を受診しなくてはならないシステムになる.他のところに行っても診てくれない.総合診療医が必要と判断した場合のみ,他の専門医を紹介するというもの.まさに水野氏が述べているシステムである.

 これでどうなるか.ハッキリと言えることは,75歳以上の人は病院や医院に係ることが出来なくなると言うこと.これが現実に起こり得る.ちょうど,老人が病院に入院できなくなったように・・・

現代の赤紙・・・それは75歳になるあなたに送られます

 75歳のお誕生日おめでとうございます。あなたは今日から、昨日まで受けていた治療が受けられなくなります。
 昨日まであなたは、「血圧はここ」「パーキンソンはここ」「腰の痛みはここ」「皮膚病はここ」といった具合に、それぞれ専門の医療機関にあなたの意思で自由にかかることができました。
 しかし今日からあなたは、どんな病気であっても1人のかかりつけ医に相談し治療していただくことになります。あなたが自由に医療機関を選ぶことはできません。


 また、あなたは残念ながら、いずれ最後のときを迎えなくてはなりません。そのときをあなたは病院でなく、ご自分の家で迎えることを強制されます。あなたが最後のときを過ごす部屋が、場所がありますか。あなたの面倒を見てくれる家族はいますか。あなたの面倒を見るために、家族の人が会社を辞めたり自由に外出できなくなってもよいのですか。

 今,お話ししたことが来年4月から現実になろうとしています。それが「後期高齢者医療制度」です。75歳を数ヵ月後に控えたある日、あなたにこの制度にもとずく「医療証」
が送られてきます。それまでの保険証は使えなくなります。
 まさにあなたとあなたの家族の幸せを破壊し、あなたのいのちを国に差し出せという、現代の「赤紙・徴兵令状」です。あなたはこれによって姥捨て山に連れて行かれるのです。


 これを阻止する方法が1つだけあります。それは7月22日の参議院選挙であなた及びご家族の方が、「後期高齢者医療制度」に賛成の候補者に投票しないことです。


 今まで国のために働いてきたあなた及びあなたの家族の生活を破壊しておいて、「愛国心」「道徳教育」「日本人としての誇り」などと言われても、あなたはむなしく感じるだけではないでしょうか。(東京の某開業医 著)

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医師は職人 論・・・なぜ,政府,自治体の行う医師確保策は次から次へと見事なまでに失敗を続けるのか?

画期的! 当直の翌日は休み-----ということは提唱されたが・・・・(平成19年7月12日)

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