患者の馬鹿げた要求には,我々医師は応えることはできないし,その必要もない.

  ・・・責任の所在を患者に明確にさせる  よその医療機関に行って貰うことを勧める.   (自験例から)

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 今は昔の話..ある週末.これで終わりかと思いきや,指を工作している時金槌で打ち付けて,指先を怪我をした小学校低学年の子供が両親に連れられてやって来た.怪我自体は医学的には大したことはない.

 この両親.はじめから変な感じ.薬を使って痛みをすぐにとってくれ,とか,早くやれ,とか,サビオを貼ろうとすると,それはないんじゃないか,剥がす時に痛いのではないか,ガーゼだろう,と言う感じで,こちらの作業一つ一つに文句を付ける始末.

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 このような患者は昔もいたが,今やどこにでもいる.どう対処すべきか.どのような対処が適切なのだろうか.

 私は,自分の所では日本でごく標準的な水準の治療をすることは出来るが,ばかげた要求には応えることはできないし,その必要もない,というポリシーでやってきた.

 このケースでも「早くやれ」と言われたが,その都度「それはできません.日本で現在行われている標準的な治療は出来ますが,そのような要求には応えられません.そこまで言われるのならよそへ行って治療を受けて下さい」とビシッと言った.

 最後に母親だけ(子供の前でワーワー言うのもいやなので)を呼び,救急処置はしたが,うちではそれまで.患者の家族に責任の所在をはっきりさせておいた.何かあったら休日でも開いている病院へ行くように.また,明日も,傷の処置は必要である.「今後,当院で治療を受ける意志はありますか」と一応は聞いた.当人は即答を避けたい,とのことであったので,この場合も,明日,休日でも開いている病院へ行くようにとムンテラした.もちろん今の治療,ベストを尽くし完璧であったことを強調したことは言うまでもない.

 当院に今後もかかる.とは言うように情勢ではなかったが,もし,今後もかかる,と言ったら,医師患者関係の不調を理由に断るつもりではあった.

 何事もない,小さな怪我.しかし,そこに色々な落とし穴があると言うことはいうまでもない.薬一つ飲んでも,いきなり頓死する場合だってある.だからこそ,大事なのが医師患者間の心の関係.信頼関係.医師患者関係が崩れていたら,そこにいかなる診療も存在しないと思う.

 これは地方の基幹病院でも同じだと私は思うのである.たとえば,救急外来で自分が診られると判断しているのに,「小児科の医者を呼べ」とか「もっとベテランを呼べ」とか救急外来で言う患者は必ず居る.そんなのに一々応えることはできないし,その必要もないと思う.そんなことをしていたら,今や珍しくも何ともないが医師が疲弊し病院が崩壊してしまう.もちろん,専門の医師を呼ぶ必要を自らが感じ判断した時はそのようにするのは当たり前だが,患者に言われたから,そんな理由で「呼ぶ」というのはおかしいことである.

 患者がその必要を感ずるならば,たとえ,100kmでも200kmでも運転して,自分の望むところにいかなくてはならない.それは患者が決めることである.もちろん,こちらが紹介などする必要はない.医師患者関係がなければ,ただの他人.言葉を換えればどうでもよい人なのである.ただ,向こう側からその関係を切らせるようにするのが肝要だ.これが出来れば満点だ.

 医師として出来ることはする.しかし,患者がしなくてはならないことは患者がする.その境界をクリアにしていく必要がこの医療崩壊時代,医療訴訟時代には,ますます,重要になって来ているとつくづく思った.

 理不尽な事を言って暴れる患者もいるという.そのときには警察を呼ぶことをおすすめする.そんな患者に殴られるのも損だし,こちらが攻撃に出ればよけいに面倒なことになる.ためらうことなく,警察を呼ぶことをお勧めする.また,盛り場近くで開業しているドクターは,そのような患者と遭遇することも多いようで,お話をお聞きすると,怪しくなるとすぐに警察を呼んでいると言う.

 文句ばかり言う人・・・医業というのは,患者から依頼されて初めて仕事が出来るのである.依頼人がばかげた要求をしてくれば,それは出来ないと,ハッキリと言うべきだろう.これはゴルゴ13と同様である.

 私も先の症例で,レントゲン等を撮ってはいたが,向こう側が「他に行く」と言えば,お金は取らない予定であった(この辺は色々なやり方があるかもしれない).さしずめ, G13なら「金は,お前の家の茂みの中に置いておいた」と言う感じであろうか.

 もし,それで暴れる人.それは自分の患者ではないし,自分と全くの関わりのない人である.それに対しては毅然とした態度を取るべきだろう.


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【ポイント】俗にクレーマーと言われる患者,訳の分からないことを言う患者に対しては,できないことは出来ない,とハッキリという.また,非常にムンテラも厳しいものにしておく.先のケースでも,薬を飲んで頓死する人もいる.また,指が腐り切断する可能性もあるとムンテラしている.このケースでは,サビオを張るかガーゼを張るかでも口うるさく言う人である.何かがあれば一発で訴えられると思わなくてはいけない.そうであれば当然だが,厳しいムンテラこそが必要だろう.

 また,私は,「出来ない.診れない」とは言うが,それを患者に強制はしない.あくまでも患者サイドから「では来ない」あるいは「よそへ行く」と言わせたい.その様にし向けることが肝要である. このケースでは,当院で継続した治療は望まれなかった.だから,一時的な応急処置は行った,という風に自分で解釈しているし,患者にも明瞭に告げた.あとのことは,今度,かかる病院で診てもらうように,ということを強調した.

 私のこのやり方が完璧だとも,満点だとも自分では思わない.しかし,医療とその責任ということは本当に現在,厳しく言われるようになった.責任の所在はハッキリさせる.依頼もされない仕事を受ける必要もない.患者自身が依頼するのかどうか,それをはっきさせる.依頼するのであれば,医療サイドとして,依頼を受ける条件も提示することができる.その条件に合わなければ仕事は出来ないし,するべきでもないだろう.

 ひところ,医療はサービス業,とも言われ,ヘコヘコと患者の訴えに合わせるのが良い医者,良い医療機関というイメージが医療機関側にあった.これが大きく変わりつつあるように思う.なぜなら,裁判が本当にきつい.責任の所在は患者にこそ明確に示すべきである.善意がまるで通じない,というより,善意こそ仇になる.やりにくい時代になった...


この記事と関連のある記事があったので載せておこう.

 医師は毅然とした態度を取ろう.要求がばかげているものは,診療を打ち切ることを常識的に必要.

お医者さんたちの受難

病院内での暴力や暴言、恫喝(どうかつ)など「院内暴力」をよく耳にするようになった。


 加害者が患者や家族、面会人の場合と病院職員の場合とがあるが、最近増えてきたのは前者という。筆者が入院・手術を受けたことのある東京医科大学病院はその一つ。具体例を紹介すると?。
 最も多いのが外来患者からの暴力で、長い待ち時間にいらいらし、やっと順番が回ってきたとき「お待たせしました」と詫(わ)びなかった医師に腹を立て足蹴(げ)りした。----(1)


 糖尿病で通院中の患者が食事療法に取り組まないので医師が「このままでは失明しますよ」と忠告したところ「失明したら(医師の)目をくりぬく」と言って脅した。----(2)


 診察が順番通りではないとして大声を出して他の診察を妨害したり、ナイフを振り回す患者や「夫はマスコミ関係者だ。これからそちらへ行くのでタクシー代を払い、すぐに診察しろ」と電話で無理難題を吹っかける患者も。身の危険を感じ、一人で診察できなくなった女医もいる。------ (3)


 「自分流の理屈をまくし立て、金銭や謝罪を要求するケースが増えている」と病院。直接の暴力など悪質なケースは月数件、暴力に至らない苦情まで含めると二百件近い。


 病院が迷惑行為や診療妨害に対して、転院勧告、場合によっては警察へ通報することを決めたのは当然だろう。


 米国での診療経験が長いコラムニストの李啓充医師は「米国では患者の権利を保障する代わりに患者の義務も求めている」と指摘する。
 患者の視点を離れ医療従事者の視点に立つと、世間ではあまり知られていない生々しい「院内暴力」の実態が見えてくる。【日比野守男】(東京新聞、2007年7月25日)

【コメント】医師は毅然とした態度を取ろう.要求がばかげているものは,診療を打ち切ることを常識的に必要.

(1)長い待ち時間にいらいらし、やっと順番が回ってきたとき「お待たせしました」と詫(わ)びなかった医師に腹を立て足蹴(げ)りした。-----警察に通報.傷害事件として扱ってもらう.治療費,損害賠償を患者に請求する.この治療には,健康保険は使用できない.全額,加害者の支払いとなる.このようなことはきちんとやろう.

(2)糖尿病で通院中の患者が食事療法に取り組まないので医師が「このままでは失明しますよ」と忠告したところ「失明したら(医師の)目をくりぬく」と言って脅した。-----治療中止が適切.他の病院へ行ってもらう.というか,あとは知らない.他人である.医師・患者関係はその時点ですでにない.どはずれた要求に応える必要はないし,できない.警察に通報することも必要.院長などには事後通告でよいと思う.上の人は事なかれ主義で何もしてはくれない.「まあまあ」しか言わないケースがほとんどだ.

(3)ナイフを振り回す患者・・・即刻警察を呼ぶ.危険すぎる.

  「夫はマスコミ関係者だ。これからそちらへ行くのでタクシー代を払い、すぐに診察しろ」・・・マスコミ関係だろうが総理大臣だろうが,アメリカ大統領だろうが,無理な依頼は断る.タクシー代を支払い,すぐに診察する義務も通りもない.


このように,逆提訴により医師側が勝利した判決もあった.俺たちはいつまでもサンドバッグじゃない.

損害賠償:「患者の請求不当」 医師側の慰謝料認定 地裁判決 /千葉

 八街市の耳鼻咽喉科医院の男性医師(49)が適切な治療をしたにもかかわらず、同市内の男性患者(67)から不当な損害賠償を要求されたとして、男性に200万円の慰謝料を求めた訴訟の判決が23日、千葉地裁であった。菅原崇裁判長は「治療は適切で、金銭の請求に正当性はない」とし、男性に30万円の支払いを命じた。原告側弁護人によると、患者のクレームが不当だなどとして医師側の慰謝料が認められるケースは異例だという。


 判決によると、医師は06年5月、男性が耳を虫に刺されたと訴えて受診した際、帯状疱疹と診断。その後、男性の顔に神経マヒが発症、男性は治療が不適切だったととして、同院に約20回、「170万円を支払えば話は終わる」とする文書を送付した。


 判決は「帯状疱疹との診断や治療薬の選択は適切。医師は金銭を要求する文書の送付などで相当程度の畏怖を感じた」と指摘した。【山本太一】(毎日新聞、2007年7月24日)

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崩壊しつつある病院で産婦人科医師によりしたためられたひとつの意見

医事評論家・水野肇 医療の中核は家庭医が担う を笑う理由

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